〜東方童子異変〜

中幕《シュウゲキ》

 
 霧生が立ち込め、暗く細波すら無い湖畔。くるりくるりと滑る様に舞う影が一つ。

「し〜ずかぁな こ〜はぁんの き〜りぃの かげからぁ〜 く〜るみがぁ く〜るみがぁ こん〜にち〜わぁ〜」

 調子っ外れな声を響かせながら、くるみは水面で踊っていた。

「がお! がお! がお!! た〜べ〜ちゃ〜う〜ぞ〜!!」

 蝙蝠翼を大きく広げ、か細い両手で招き猫。童顔に八重歯を魅せて、可愛らしくポーズを決めた。
 くるみは番人である。夢幻館――幻想郷と魔界の狭間に位置する、主人が所有する館を守る番人なのである。こう遊んでいてはいけない。
 だがしかし、来ない敵を待つよりも、帰ってくる主人をもてなす事が大切なのである。

「よし♪」

 一通り躍り終え、完璧だ、とくるみは確信する。
 これなら今日帰ってくる主人も喜んでくれるだろう。もしかしたら、褒美に頭を撫でてくれるかもしれない。あの主人が、である。

「ふふふふぅ〜♪」

 そんな光景を夢想しながら、くるみは主人の館にその翼の先を向けた。
 来ない敵を(ry。内装をMOTTO,MOTTO強化しなければ。

「ふふふ〜ん……あれ?」

 それは、くるみが吸血鬼だからこそ気付いた違和感だった。

「……エリーの匂い?」

 くるみ自身が言葉にした通り、館の方から香るモノは確かに同僚エリーの匂いだ。
 しかし、何かが可笑しい。
 何かが……

「…………」

 エリーは――

 こんなに甘美で紅い香りをしていただろうか……?

「――――ッ!? エリー!?」

 嫌な予感に、くるみは矢の如く飛び出した。
 そして――

『おやぁ、お前さんはどうしてそんな所で寝ているのさね?』

 意識がとぉ……
 …………


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