〜東方童子異変〜

一章ノ拾《童子異変――開戦》

 
 大木の下、朱天は静かに酒盛りをしていた。酒の肴は夜闇の月に煌めく星々、待ち人思う焦れの心地好さだ。

「綺麗な星空さね……そうは思わないかい、え〜りん?」

 待ち人の名を口にする。何度目かも分からない声かけに、ようやく返ってきた声があった。

「そうですね。貴女と出逢った日を思い出しますよ、朱天」
「遅いさね。もう一本空になったところだよ」
「文句を言わないの。これでも寄り道もせずにここまで来たんですから」

 事実、永遠亭を飛び出した永琳は天狗も驚嘆するような速度でここまで来ていた。それでも息切れ一つしていない。まるでウォーミングアップでもしてきたような様子だ。

「新聞屋は知っているの? 私達の関係」
「いんや、いつか医者の世話になるだろうから、この文を届けてくれ、と言っただけさね……文だけに」
「ふふ、相も変わらず酷い嘘ね。一杯、頂けないかしら?」
「あいよ」

 朱天は出した猪口を渡し、永琳に酒を注ぐ。更に自分も猪口を取り出すと、永琳から酒を注いで貰う。
 そのまま互いに一口煽る。静かに、少しずつ酒を口にした。
 猪口の酒を飲み干した後、初めに口を開いたのは朱天だった。

「やっぱり、私達の願いは共には成就しそうにないねぇ」
「そうねぇ。ここらしくスペルカード? けど、事が事だけに面倒なのが多いわよ?」
「そうさねぇ……」

 二度、互いに酒を注ぎ合う。
 次に酒が空になった時、初めに口を開いた者もまた、朱天だった。

「んじゃ、満月が上るまで別の方法で一勝負と行こうかねぇ」

 そして三度、互いに酒を注ぎ合った。





     ……後に童子異変と呼ばれる──この異変の始まりだった。




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