〜東方童子異変〜

一章ノ肆《鬼が住むか蛇が住むか》

 
「はぁはぁはぁ……も、もう来なくてもいいよ朱天」
「酷いねぇ、萃香。私はこんなにも愛しているのにさぁ」

 神社の境内にて、ケラケラと朱天が笑う。
 余裕綽々の朱天に対して、萃香の疲れっぷりは尋常じゃなかった。

「ゆ、紫にからかわれる方がまだましだよ」
「紫? 一人一種族のスキマ妖怪かい? 厄介なやつだと文から聞いたねぇ」
「あいつはそんな簡単な言葉で片付けられるやつじゃないよ……」

 萃香のその言葉には霊夢も同意だ。異変こそ起こさないものの、運んでくる面倒事はある意味異変よりも厄介だ。外来人を連れてくる事などいい例である。

「そーかい。いつか会ってみたいねぇ」
「安心していいわよ。会いたくなくてもどうせその内会えるから」
「あたいも帰る!!」
「あんたはそのままもう来るな。やかましい」
「ヒデェ!? 二度と来てやるもんか!!」

 べそをかきながらチルノが宙に浮かぶ。
 不意に、今にも帰ろうとするチルノへ朱天が何かを投げ渡した。

「選別さね、チルノ」
「え!? これあたいにくれるの!?」
「や、ここまで案内してくれた礼さね。また遊ぼうか」
「うん! また来るね!!」

 氷の妖精にはまるで似合わない、まさに太陽のような笑みを浮かべ、今度こそチルノは帰っていく……霧の湖とは逆方向のような気がするが。

「……朱天、あんたもさっさと帰りなよ」
「冷たいねぇ。ま、帰るさ」

 シャラン、と朱天は鈴の音のように鎖を鳴らす。飛ぶこともなく、歩いて帰ろうとする朱天の後ろ姿に霊夢は声掛けた。

「そういえばあんた、どんな能力持ってるの?」

 それは当然の問いかけだった。そこらの妖精や下級妖怪ならともかく、相手は異変を起こしかねない鬼という上位種だ。
 それに――

(さっきの違和感……何か引っかかるわ)

「……そうさねぇ」

 振り返る事なく、朱天は一瞬足を止める。

「や、萃香。面倒だから説明は任せたさね」
「え? ちょっと朱天!?」
「んじゃ〜」
 制止の声を聞く事なく、朱天の姿は階段に消えていった。


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