夜よりも深い闇が空を覆う森の中。
ツェツェとティニスは背後より迫りくる謎の影におびえながら、リーネフと別れた洞窟から逃げ出してきていた。
「ツェツェ! こんなやつ、あの洞窟においてけばよかったじゃん!」
ツェツェの前を走るティニスは自分の背中に眠るフランを嫌そうな顔で睨みつけながらそう後ろのツェツェに向かって叫ぶ。
「ダメ……だよ、ティニス」
前をフランを背負い、平然と走るティニスを追うように走るツェツェはその声をキレギレとなりながらも、ツェツェは必死に言葉を伝える。
「だって、あそこにいたら……あの変な影に……襲われるか……もしれないじゃない!」
「別にいいじゃん、こんなやつ。ボク達はこいつにだまされそうになってたんだよ?」
「だ、めだよ……だって、人を見殺しなんて……絶対にダメだよ!」
「そんな事をいったって……」
そういって、ティニスはツェツェのさらに後ろを確認する。
しかし、そこには形のない”影”。
だが、それは確かにティニス達を追って来ている。
それはまるで飢えた獣のように、ティニス達を喰らいつくそうと迫りくる。
「ツェツェ! 危ない!」
「え!?」
そう言われた瞬間、ツェツェは態勢を崩しそうになりながらも、その場から両足を上げ体を宙に浮かす。
その瞬間、先ほどまでツェツェがいた場所に影が覆い尽くす。
その光景を走りながら目の当たりにしたツェツェは背筋が凍りつくような感覚にとらわれる。
もし、あれに取り込まれていたら。自分はどうなっていたのだろうか。
無事で、いられる?
いや、きっと私は生きていなかっただろう。
確信はあるわけじゃない。だけど、きっとその答えは正しいとツェツェは本能的に察していた。
「まったく。あの似非神父!! 一体、何をしたんだよ! なんでボク達はあんな変なのに追われなくちゃいけないんだ!」
「でも、ティニス! このあと……どうするの!?」
そう思ってしまったからか。ツェツェの口からはそんな言葉が飛び出す。
「森の中を走って……私達、一体どうすればいいの!?」
「大丈夫! このまま走れば、絶対に助かるから!」
なん、で?
ティニスの言葉を聞いてツェツェの中に生まれる言葉はそんな疑問だけ。
だって、このまま森の中を走ってその先に何が待っていると言うのだろうか。
もし、もしだけど……。
このまま走り続けた先にも今、自分たちを追いかけている影が待っていたら?
それはきっとツェツェ達の生物としての終了を意味していた。
だけど、ツェツェのそんな疑問はすぐに張れることとなった。
「ここ……は?」
次の瞬間、ツェツェ達を待っていたのはとても明るい空間だった。
上を見上げると、そこに広がるのは蒼く染まる日常の青空に緑の草原。
先ほどまであったはずの闇はそこにはなく。代わりにあるのは一本の大きな木だけ。
そしてそこに吹き抜ける風は今まで走ってきたツェツェを優しく包み込む。
それは、ツェツェにとっては初めての場所のはずなのに。どこか懐かしいような。そんな感覚にツェツェは戸惑ってしまう。
しかし、そんな様子を優しく微笑みながら見つめる。そして、ゆっくりと背中のフランを草の上に降ろし、目の前の木を見つめゆっくりとその口を開く。
「ただいま……ルシャル」
その言葉は風に優しく包まれ、辺りに響き渡って行った。
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