「今だ!オルム!!」
僕は叫んだ。
フランの声に応じるように、オルムの周りを闇が渦巻く。
「え!?」
ティニスは予想外の事態に困惑しているようで、一瞬全ての動きが止まった。僕はティニスに向かって走り出した。近づいてくる僕に気が付いたティニスがツタで薙ぎ払おうとした。
だが、ツタはその場にへなへなと力なく倒れるばかりだ。
「な、何っ!? どういうこと!?」
驚きを隠せないティニスの声が響く。
ティニスはまだ、黒々と渦巻くオルムを手に持ったままだ。これこそ、僕が考え出した作戦だった。
まず、あえてオルムをティニスの手に渡らせる。これは、一度ティニスと戦っていたおかげで、僕の攻撃手段がオルムだけだと思わせることが出来たようだ。あとはティニスがオルムを手に取るのをひたすら待ち続けた。
そして、ようやくティニスがオルムを手に取ったとき、オルムの力が発動した。
オルムは相手の魂を抜き取るだけが能ではない。オルムに触れている精霊から、その力を抜き取ることも出来るのである。オルムを取り巻く黒い渦は、決してオルムから出たものではない。ティニスが持っていた力をオルムが抜き取り、外へ放出しているのである。
ティニスが状況を掴めず混乱している間に、僕はティニスの目前にまで迫っていた。
僕は確信した。これで決着すると。
既にティニスの力のほとんどは、オルムが外へ放出してしまった。
ティニスの驚きに目を見開いた顔が目前に迫る。僕はティニスの脇を擦り抜けつつ、オルムを掴み取った。
黒々とした渦は残滓を残しながら消えていく。僕はティニスに振り返りながらファインダーを覗いた。
驚愕と、諦めと、怒りと、悲しみと。ファインダー越しでもティニスの感情が伝わってきた気がした。けれど、僕はそれを振り切り、シャッターを切った。カシャっと小気味良い音が森に響き、白い光が辺りを覆った。
僕がファインダーから顔を上げるとそこには、嵐が通り過ぎたかのように薙ぎ倒された木々が転がるのみだった。
|