「できて、木を五本ってところか……」
森の中でフラン達が戦いを始めたその頃。
森の外の草原では、『望遠鏡』とよばれる円錐状の筒のような物を覗きながらそう呟く男がいた。
その男の顔に映るのは、目の前の光景を前にしての感嘆でも、驚愕でもない《笑み》。
それはその光景を見た者が決して抱くはずのない感情であるからこそ、その男からは不気味さすら感じられる。
「シャルル、何を言ってるの?」
そんな男の隣で同じ方向を見ていたリインが、呆れるような顔をしながらその男――シャルルに問いかける。
「おい、リイン。そんな汚物を見るような目で言わなくてもいいじゃねぇか」
「シャルルの頭がおかしいのは始めからわかってたけど。今日はいつも以上に変。今すぐに頭に堅い物をぶつけるべきと判断した」
「待て待て待て……、そんな無表情で、その袋を振り上げるな。それはマジでいたい。ああ、本当に痛いんだ。だから落ち着いてその手を降ろせ」
「それじゃあ、一人で納得してないでリインに説明して」
「ああ、わかった。わかりましたよ……っと」
無表情のまま額に怒りマークを付けていたじゃじゃ馬娘をなだめる事に成功して、シャルルは少し疲れた表情を見せる。
すると、シャルルはもう一度目の前で起きている”戦い”に視線を向けた。
そこに広がる”戦い”は、”戦争”と言っても過言ではなかった。
飛び交う銃声。広がる炎。
シャルル達からほんの数百メートルしか離れていないその場所で、シャルル達と共にティニスが守る森にやってきた討伐隊が突入作戦を開始したのだ。
「それで、木が五本って……なんなの?」
「ああ、それは軍団長閣下が魔法側の森に与える損害」
「は?」
言っている意味がよくわからない。
リインがシャルルの言葉を聞いた時に一番始めに思った言葉がそれだった。
しかしリインがそう思うのも無理のない話だった。
なぜなら、リインが見る軍団長達が行っている行為は、今まで人が魔法にしてきた仕打ちの中でも随一の力を誇っているのだ。
鳴り響く銃声には途切れなど存在しないし、この場所も隔離されているから安全だが、すでに森の周りは火の海と化している。そんな中、シャルルは木を五本しか傷つけることが出来ない。そう言っているのだ。
確かに……確かにだ。
リインにも彼らの力では魔法という存在を傷つける事は出来ないと言う事は百も承知だった。
だから自分と言う存在がいるのだし、シャルルもいるのだ。故に、討伐隊にエルフの抹殺など期待などしていない。
だが、森は別だ。
森は例え、世界が科学に染まろうとも、例え魔法に埋め尽くされようとも、その大きな姿は存在し続けるだろう。
だから、森は科学の力でも燃える。
それは確かな事だった。
なら、何故これだけの力を持ってしても森が焼けないのだ?
その事がわからずリインは首を横にかしげていた。
「ああ、きっと物好きな《神喰らい》があちら側に協力してるんじゃないのか?」
そんな様子を見てシャルルがリインの思っていた事の答を告げる。
「ああ、あいつか……」
神喰らい……その名前を聞いた時。リインが出したのは深いため息とそんな諦めを含んだ言葉だった。
「なんだぁ? 驚かないのか?」
「あいつならやりかねないと思っただけ」
「そうか。なら多くは語る必要はねぇよなぁ」
そう言うと、シャルルはもう一度望遠鏡を覗く。
「お、終わった見たいだぞ?」
望遠鏡を降ろし、目を細めながらシャルルは告げる。
シャルルの言うとおり、先ほどまで鳴り響いていいた銃声は止み、燃え盛っていた火もすでに鎮火へと向かっている。
しかし、そんな中。未だに燃え続けている木がいくつかあった。
「三本か……」
その火は、明らかに討伐隊が付けた物で間違いないだろう。
だが、その火もきっとすぐに奴らによって鎮められるだろう。
「はずれちまったぜ……」
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