「へっへっへ……」
戦闘の終えた森から戻ってきた討伐隊を迎えたのはそんなシャルルの乾いた笑いだった。
「なにか、言いたいのか?」
そんな態度を見た軍団長は疲れ切った顔を見せながらシャルルに問いかける。
シャルルは、軍団長の言葉を聞いてから数回何かを納得するかのような頷きそすると、ゆっくりと言葉を綴る。
「なら、一言を……。あんたは子供か何かか?」
「んな!?」
「激情に任せて移動で疲れた兵士の尻を叩いて攻撃して……それで勝ててたら苦労するわけないよなぁ?」
「それは……」
「へ、今さら悔しがっても遅ぇんだ……」
「コラ」
――ゴチン
「うごぉおおおおお!!」
突然後頭部辺りを襲う強烈な痛みに苛まれ、シャルルは思わず低いうなり声を上げる。
「り、リイン?」
「軍団長をいじめるなとなんど言えば分かる」
「だがよぉ、リイン。予定通りに夕刻に攻め込めばある程度準備ができていたはずだ。その上、遠距離を移動してきた兵たちは疲弊しているはずだ。時間を開ければまだましな結果になったかもしれねぇんだぞ? なのに、この馬鹿な軍団長は……」
「馬鹿はお前だ。シャルル」
「はぁ?」
「相手に神喰らいがいるとわかった時点で、こちらの手など読まれているに決まっている。だから、これでよかったんだ」
「その結果が惨敗でもか?」
「お前もあいつとなんどか戦った事があるならわかるだろ。あいつの本当に恐ろしい所は……」
「えげつない作戦か?」
「そういう事だ」
「ああ、なるほど……これであいつの調子少し狂わしたと言いたいのか?」
「うん」
「……軍団長閣下。よくやった」
「なぜ貴様は上から目線なのだ」
「いいじゃねぇか。負けが功へとつながったんだ。始末書を書かずに済む事になった上に褒めてもらったんだから喜んでおけよ」
「ぐぐぐ……貴様ぁ!」
「それと、リインには感謝しとけよ。そいつがいなければお前らは全員まとめて減俸されるところだったかもしれねぇんだからよぉ」
「だれが、そんな”竜”ごときに……」
――ドォオオオオオオオオオオン。
軍団長の言葉を遮るように響き渡るの轟音。それは周りにいた人間が怖気を抱くほど、冷たくて……重い音だった。
その音はリインのいる所の地面が、強烈な何かで穿たれた事による音だった。リインからは明らかな怒りを見せていた。ずっと一緒いにいたシャルルですら恐れるほどの威圧を与えながら……。
「ふざけるなよ、人の子よ……。貴様らに我らの気持ちなどわかるまい。住処を奪われ排斥された我らが、なぜ今の状況を受け入れようとしているのかも知らずに……。二度とその口で話が一族を侮辱してみろ。貴様の一族とその家を全て焼き尽くしてくれるわ」
そう言い残すと、リインはその足で森へと足を進める。
それを見たシャルルは、無意識に震えていた足を叩き。気を落ち着かせてからリインの背中に向かって声をかける。
「……おい、リイン! どこにいくんだ!」
「すこし、今回のターゲットが気になる」
「今さら同類に同情したのか?」
「まさか」
そういうと、シャルルに向かって振り向く。
そしてその顔には、普段でもあまり見られない笑顔を映して。
「私はシャルルの味方だ。シャルルと交わした約束を、私は絶対に守るよ」
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