人間は森を恐れるが故に表層しか触れられず。
妖精は森と共存するが故に最奥に触れられる。
故に――森を従えうる彼らは、最奥にすら浸食する。
ツタの壁が解け、一人の青年が部屋に滑り込んだ。先ほどリーネフと名乗ったその青年は、誰かを探すようニコニコと辺りを見渡す。
「皆さぁん、帰りましたよぉ」
……しかし、何の反応もない。それに、リーネフの表情が反応する。
鋭く目を光らせたのも一瞬、直ぐにその顔に笑みが蘇った。
「あぁ、他の皆さん出かけているのでしたねぇ。スコール、ハティ、君達以外」
「あちゃーばれちゃった〜」
「…………当たリ前」
ボウっと浮かび上がるように、一組の少年と少女がリーネフの目の前に現れた。
少年は太陽のように晴れやかな笑みを、少女は月影のように静かな表情を湛えている。少年はスコール、少女はハティ。まさに正反対の二人だが、その姿見はあまりにそっくりだ。
二人の口振りを聞くに、元から此処に居たのだろう。可愛い悪戯ではあるが、追われてる身のリーネフには意外と心臓に悪い悪戯だ。
「ハティ、軍の首尾はどうですか?」
「……最新鋭ノ銃器ライフルに火炎放射機、各ニノ十。足ス機関銃」
「成程、テストも兼ねてと、言ったところでしょうか」
武器と云う物はただ破壊力がある物でも、ただ間合いが長い物でも、ただその両方でも優れているとはいえない。
人間が容易に扱え、動く相手に当てられ……その他諸々の条件がそろって漸く使えるかどうかが見えてくる物だ。それらを確かめるには、やはり何かしらの敵がいれば遣り易い。
今回のように敵も一人で、国家に対する強い忠誠心と云う利益が生まれるなら願ってもない状況だろう。
……尤も、リーネフに言わせてみれば、それはただの人間を基準としたものだ。
故に――
「まぁ、どうとでも出来ますがねぇ。その程度だけ、ならぁねぇ?」
「………………足ス【夢喰イ】」
「ほぅ、やはり。予定通りに次ぐ予定通りと云ったところですかねぇ。して、到着の予定のほどは?」
「……夕。そウ、影ガ言っタ」
「それはそれは……スコール?」
「こっちも予定通りに動くっぽいかな〜? 向こうの蛇も気付いてないみたいだしね〜」
馬鹿だね〜とスコールは笑った。その笑顔にハティも珍しく表情を緩めている。しかし、リーネフは頬笑みながらも内心で警戒の色を消さずにはいれなかった。
気付いていない。確かにそうかもしれない。しかし、事が動き出した時、あの蛇がそうそううまく事の流れに乗ってくれるほどの無能でない事は良く知っていた。
(やはり、警戒は解くべきではないでしょうねぇ。我が妹の事もありますし……)
これはもう一つくらい手を打つべきかもしれない。ステージに足りない神。そう例えば、人と神が意思を確かめ合うような――
「成程……では、予定通り夕に決行と行きましょう。私の合図があり次第、スコールとハティは空を夜まで動かしてください」
「「ヤー」」
一つ気の良い返事を残し、二人は消える。その後ろ姿に無事を祈りながら、リーネフは思う。
人間が幻想を殺そうとしようが、
神が幻想を消していこうとしようが、
彼ら彼女らにそれは為し得ない。
「さぁて、まずは予定通り。神の代理同士でがんばってもらいましょうかねぇ。そう――」
幻想は幻想として……
他と交われども、その終焉は幻想として在るべき姿に……
幻想は、幻想のイシにこそ……
「同族、ハーフエルフがティ二ス……そして、ツェツェ」
貴女方のイシは、どのような彩りを持っているのでしょうか?
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