幻想の夢
―第一話 第二章 B―
著者:白良


 蒼天だった空が夕暮れに染まり始めた頃、フランとオルムはようやく街に戻ってきた。
 朝とは違う喧騒が街を包んでいた。夕食に使うであろう食材を買い求め、市場では人々が行き交っている。
 普段のフランならば、おいしいもの目当てで市場を覗いたりするのだが、今は疲れてくたくただった。
 フランは若干重い足取りで、しかし器用に人の波を避けながら宿へと向かった。

「……」

 先ほど散々追い掛け回され、猛ダッシュで逃げてきたのが、つい先ほどのこと。もう何もしゃべりたくもないし、本当は動きたくもなかった。
 次の角を曲がれば宿はすぐ目の前だ。ふかふかのベッドで、一刻も早く休みたかった。

「……!」
「きゃっ……!!」

 フランが疲れた足取りで角を曲がろうとしたその時だった。ぼーっとしていたフランは、突然角から現れた何かにぶつかり盛大に尻を石畳に打ち付けた。

「……っ、痛っ〜」

 じわじわと広がる痛みに顔をしかめつつ、フランが視界を上げるとそこには1人の少女が、同じく尻餅をついていた。周りには少女のものと思われる荷物が散乱していた。

「わ、大丈夫?」

 フランは急いで立ち上がると、何とか力を振り絞り散乱している荷物をすばやく集め、少女に手を差し伸べた。

「あ、ありがとうございます」

 はにかむように言いつつ、少女はフランの手を取り立ち上がった。

「ごめんね。怪我とかない?」

 フランも痛いのをこらえ、何とか笑顔を浮かべてみた。

「はい、こちらこそすみませんでした」

 少女はフランから荷物を受け取ると、ぺこりと頭を下げ、フランが来た方へと走り去って行った。
 その間オルムが黙っているというのも珍しいことだったが、フランはそんなことを気にする余裕などなかった。

「あー……、寝たい」

 フランは一言つぶやくと、宿に向かって再び歩みを進めた。
 ……お尻をさすりながら。

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