蒼天だった空が夕暮れに染まり始めた頃、フランとオルムはようやく街に戻ってきた。 朝とは違う喧騒が街を包んでいた。夕食に使うであろう食材を買い求め、市場では人々が行き交っている。 普段のフランならば、おいしいもの目当てで市場を覗いたりするのだが、今は疲れてくたくただった。 フランは若干重い足取りで、しかし器用に人の波を避けながら宿へと向かった。
「……」
先ほど散々追い掛け回され、猛ダッシュで逃げてきたのが、つい先ほどのこと。もう何もしゃべりたくもないし、本当は動きたくもなかった。 次の角を曲がれば宿はすぐ目の前だ。ふかふかのベッドで、一刻も早く休みたかった。
「……!」 「きゃっ……!!」
フランが疲れた足取りで角を曲がろうとしたその時だった。ぼーっとしていたフランは、突然角から現れた何かにぶつかり盛大に尻を石畳に打ち付けた。
「……っ、痛っ〜」
じわじわと広がる痛みに顔をしかめつつ、フランが視界を上げるとそこには1人の少女が、同じく尻餅をついていた。周りには少女のものと思われる荷物が散乱していた。
「わ、大丈夫?」
フランは急いで立ち上がると、何とか力を振り絞り散乱している荷物をすばやく集め、少女に手を差し伸べた。
「あ、ありがとうございます」
はにかむように言いつつ、少女はフランの手を取り立ち上がった。
「ごめんね。怪我とかない?」
フランも痛いのをこらえ、何とか笑顔を浮かべてみた。
「はい、こちらこそすみませんでした」
少女はフランから荷物を受け取ると、ぺこりと頭を下げ、フランが来た方へと走り去って行った。 その間オルムが黙っているというのも珍しいことだったが、フランはそんなことを気にする余裕などなかった。
「あー……、寝たい」
フランは一言つぶやくと、宿に向かって再び歩みを進めた。 ……お尻をさすりながら。 |