〜東方童子異変〜

二章ノ弐《巫女の笑顔》

 
 ガラガラと音を立て、ガラクタが粉塵を巻き上げる。少女の背後に在る小さな分社と血の様に赤い鳥居だけが、ここが何処なのかを示していた。

「……ふん、まさかこれがもう役に立つなんてね」

 発射の構えを崩し、幽香は詰まらなげ呟いた。
 特注傘の先端に接続された八角形、それが未だに小さなスパークを噴いている。借り物ながら、やはり中々の物だ。自称、普通の魔法使いには過ぎた物かもしれない。
 幽香は瓦礫の山に視線を投げた。

「さてと……伊吹萃香は何処かしら、霊夢?」
「…………」
「あら、死んだフリなんて意味ないわよ。貴女がこの程度死ぬ訳がないもの」
「……そう」

 瓦礫が吹き飛んだ。再び上がる煙幕の中に、くっきりとした赤い影が映っている。鬼神の様な殺意をたたえた、一人の少女。
 ――愽麗霊夢

「伊吹萃香を探しているのだけど、此所には居ないのかしら?」
「居ないわよ……地下に帰ったわ……」

 蚊の鳴く様な声で、霊夢は答えた。
 彼女らしく、ゆっくりとした動作で身体中の埃を払う。首をゴキゴキと鳴らし、束ねる暇すら出来なかった髪を掻き上げた。

「で?」

 少女は向日葵すらもパルパルしてしまうくらい輝く笑顔を魅せる。ただ、声色はゾッとくるくらいにとても静かだった。

「用件と遺言はそれだけ? お賽銭はすませたの? 花畑のスミでガタガタふるえて命乞いをする心の準備はOK?」
「あら、お賽銭なんてどこへ入れるのかしら?もしかして、その小汚ない屑入れの残骸の事?」
「死にたいの?いや、もう殺すわ!」
「やってみなさい?ただの巫女風情が!」

 まさに一気触発。辺り一帯が焦土とかすだろう力と力のぶつかり合い。見えない戦意が周囲を包み、木葉を巻き上げている。
 だが、二人のそんな勢いは、直ぐ様殺がれてしまう。

「そ〜こ〜ま〜で〜」

 二人の間に入った、ひどく間延びした声。

「「…………」」
「この勝負――私、西行寺幽々子が預かるわ〜
 ……って、一度で良いから言ってみたかったのよね〜」

 亡霊の姫君はイタズラっぽく最後にそう付け加えた。



「……興が冷めたわね」
「…………そうね」

 亡霊の姫君に見せつける様に、二人は静かに溜め息をついた。


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