審判者には必ず力が宿っている。
それは審判者になったから備わる力ではなく、一子相伝。一種の家伝の様にその体の内側に元から備わっている物である。
その力の属性によって審判者には二つ名を与えられる。
例えば、シャルルの”夢喰い”がそれにあてはまる。
シャルルは自らと戦った相手を倒すことで、その魔力をその身に蓄え、その力を持ち主の力に自らの魔力を相乗させた力にする事が出来る。文字通り『夢を食べる』能力だ。
ならば、フランの力ななんだ?
フランの二つ名は夢縫いだ。
『今だフラン!』
自らを呼ぶ声が聞こえた時、フランはその能力を発動させていた。
縫うと言う言葉は、何かと何かをつなぎ合わせると言う言葉だ。
つまり、フランの力は……。
「うぁあああああああああああああ!」
その後、横たわっていたはずのオルムの体が突然跳ね上がり、その巨大な首を思い切り横に振り抜く。
そしてその反動で首にしがみついていたフランはその体を宙に浮かせた。その草よりも小さくなってしまっていた体は風に乗るように、自分の数十倍もおおきな体を持つ狼へと飛んでいく。
自らの力を限界まで振り絞っていたスコールはその存在を認識することなどできない。
そして、自らの力を爆発させようとしていたスコールの体が白く輝いた刹那。フランの右手がスコールに届く。
「ごめんね……」
その言葉はなにを意味していたのか。
フランは自覚もしないうちにそんな言葉を発していた。
そして、その瞬間フランシスがただひとつの魔法に対して有効な力を発動させた。
フランシスという少年は元来戦闘とはかけ離れた旅を送ってきた。
彼は持ち前の優しさがゆえに誰かを傷つけると言う事を極端に嫌がる。
しかし、審判者とは魔法を殺すのが目的とした。所謂処刑者に近いものだった。
そんなフランは、審判者でありながら外れ者・異端者と罵る者も少なくなかった。
だが、それでもフランは今まで旅を続けていた。
しかもフランが訪れた場所には必ず魔法がいて、フランが去った後には、その魔法はいなくなっていたのだ。
それは、魔法を殺して歩いていると言う事の他ならぬ証拠だ。
だが、傷つける事を恐れるフランは、どうやって魔法を殺したと言うのだろうか。
魔法を殺すと言う事は、誰かを傷つける事という。両者はイコールの方程式で結ばれているはずだった。
だが、それは方程式が二辺であった場合の事だ。
殺すと言うのが、誰かを傷つけて生命活動を止めると言う言葉の他に、もう一つの意味があるのなら?
もし、そのもう一つの答えがあったとするならば、フランの力は最強に近いものだった。
殺すという言葉は、その場からいなくなると言う事だ。
殺せば、その殺された相手はそこからいなくなるし、二度と会えない。フランは自らの縫うと言う能力をそのもう一つの答に結び付けた。
縫うとは、二つの物を結び付ける事。
夢とは、この世に存在する魔法の事。
つまり、フランの力は。
――魔法と魔法を結びつける事だ。
「オルム!」
だから、フランは自らの相棒の名を叫ぶ。
オルム……ワームとは、かつてこの世に存在した巨大な悪夢の再現者。
だが、悪夢という二つ名ともう一つ。彼には二つ名が存在した。
彼は、あまりにも大きすぎる存在だった。
だから、彼を見た数多の人々は、地平線の果てまであるワームの体を見た時にこう言葉を示したのだと言う。
――この悪魔は、どこまでも続く”無限”の存在。と……
それは幾多もの年月を経つにつれ、言霊が力を呼び、オルムの体の中にもう一つの能力が付きたされた。
オルムの中はどこまでも無限に広がるもう一つの世界だと。
そこは、誰もが望んだ自由な世界だと。
この世界に魔法が存在してはいけないのなら、この世界が魔法を拒絶すると言うのなら、彼らと言う命はもう一つの世界に連れて行けばいい。
だから、フランは宣言する。
この世の魔法が、もう一つの世界で幸せでいてくれるようにと。
「――Fantasy Dream」
その瞬間、神喰らいの子。太陽を喰らう者――スコールは、オルムの中のもう一つの世界に旅立っていた。
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