幻想の夢
―第一話 第七章 B―
著者:B-ta



 この世の魔法には二種類いる。
 人々が信仰し、この世に住みながらこの世をすべていた神々。
 そして、もう一つが魔物だった。
 魔物は、神々とは違い。生きている事に何らかの意味があった。
 それは神の代わりに自然を司る事を生きる意味とされた存在である魔物としては当然と言える話だった。
 例えば、エルフで言えば森の平穏を守る。
 竜は神々の宝の守護者など。
 それは大地を愛した神々が、それの平穏を守るために使わした。いわば天使に近いものだった。
だが、それでも例外というモノが存在した。
 しかしその例外というモノは生きている意味があるかどうかというわけではないその例にまったく属さぬものだった。
 普通の魔物が神々の愛によって生み出される者ならば、その例外は全くの逆。
 人々であるが故に生まれた感情。怒り、憎しみ、悲しみ。それらの呪によって生み出された存在。
 正の感情を超える勢いで増幅する負の感情から生み出された例外の魔物は神をもしのぐ力を手に入れてしまった。
 神々は例外の魔物を恐れ、彼らを封印することで自らの身を守ったと言う。
 その部類から見ると、ワームであるオルムは負の感情から生まれた存在だった。
 竜と同じ出生してながら、その身に受ける成分が違ったせいで、オルムは大きくなりすぎてしまっていた。

 曰く、山を幾重にも巻くほど強大。
 曰く、その体はスカンジアナ半島を覆い尽くすほどの悪魔。

 オルムは生まれたその瞬間から、その体の強大さのために邪悪な存在。災厄の象徴とされていた。
 故に、彼は”悪夢”の名を付けられた。
 彼の存在は、人に知られてはいけなかった。存在が大きいが故に、彼の存在の認識自体が神々が愛した大地を汚すものとされたから。
 だから彼は悪夢と呼ばれた。
 そしてその悪夢は、時を超え今よみがえる。
 神々の使った規格化の魔法を逆手にとり、反撃の狼煙を上げる。
 敵は、神を憎み、疎んだ神の子の狼。フェンリルの子。
 太陽を、月を喰らい。この世に闇を現そうとする者たち。
 地獄の淵より現る奴らを見つけ出すために、オルムは再び本来の姿に戻る。
 からくり仕掛けの体から強大な体を新緑の草原の上に現す。
 しかし、それと同時に、フラン達の体が小さく縮む。しかし、それも算段の内だった。
 規格化の魔法とはその存在の大きさを均一にする魔法。
 しかし、それは魔法の存在であるオルム達に関してのみだった。
 元々が人間であるフラン達は、その枠から外れ、むしろ小さくなってしまう。
 だが、それと同時に隠れているはずの地獄の兄弟が大きくなるのは目に見えてわかる事だった。
 だからオルムは、本来の姿を現した。

『おい、フラン! 聞こえるか!?』

 元の体となり、姿が大きくなるその瞬間に自らの首元にしがみついているだろうフランに向かい、オルムが叫ぶ。

「あ、うん!! 聞こえてるよ!!!」

 急激に大きくなるオルムの背中の棘に必死につかまりながら、フランは叫ぶ。

『この後の事はわかってんなぁあ!?』
「うん、わかってる!!」

 草が小さく。空が広く。生物が小さくなる景色の中。一人と一匹の不可思議な審判者達は、言葉を交わす。
 その声は、絶望的なこの状況を打破するためにとどろく英雄の掛け声の様に勇ましく響く。
 この声は旗だ。
 勝利をつかみとるために、掲げる軍旗。
 この世の平和を導くために更新する。審判者という軍の最前衛を戦い抜くと決めた者の誓いの旗。
 だから、この声は高らかに響く。

『俺は、奴らを見つけ出した瞬間に攻撃に出る! その後の事は、お前に任せるぜ!! 審判者《夢縫い》。フランシス・ラムントン!!!』

 その声がフランに届いた刹那。二人の目の前には大きな暗い目をした狼が佇んでいた。

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