そうして今、僕の目の前には、巨大な蛇の姿をしたオルムが悠々と佇んでいた。
『よう、無事か?』
「あ、れ……。どうして僕はこんなところに……?」
どうやら僕は巨木に背中を預けたまま、気絶していたようだ。
周りを見渡してみると、地面があちこち抉れていた。
「誰かが、戦っていた……?」
僕は起き上がりながら記憶を辿っていった。
「確か僕はリーネフと一緒に洞窟に入って、それから……」
それから僕はティニスとツェツェに会った。そして僕の記憶が僕が最後に感じたのは、姉さんの温もりだったような気がする。だが、それからの記憶が無かった。どうして僕が巨木の下で気を失っていたのか。この場所で何が起きていたのか。
それに、僕の姉さんは、僕が約束を守らなかったせいで――
あの時、僕のせいでもう一人犠牲者がいた。名前も知らない少女。
――目の前にはあの時と同じ、大蛇の姿。咥えられた少女……。
僕はおそるおそる上を見上げた。
そこには果たして、獰猛な、ありとあらゆるものを捕食してきたような大きな口と、そこから伸びる赤い舌をちろちろと動かすオルムの顔があった。
「ひっ――」
『おい、人の顔見てそれは失礼じゃねェのか。まあ、人じゃねェけどよ』
「あ、ああ、ごめん」
一瞬オルムの顔に恐怖を感じた。だがオルムは見た目はいつもと違っていても、中身は一緒で少し安心した。それに僕が危惧したような、あの出来事と同じ過ちは繰り返さずに済んだようだった。
「ああ、……よかった」
僕は全身の力が一気に抜けるような感じがした。だが、
「よくなんかないよ。ボクたち、ここに閉じ込められちゃったんだから」
まるで蔑むような、とても冷たい声がした。僕は声がしたほうを振り向いた。
「ティニス……、ツェツェ……」
ティニスは僕を射殺さんばかりに睨みつけてきていた。僕はティニスやツェツェに誤解されたままであることを思い出したが、まずは聞くべきことがあった。
「閉じ込められたって、どういうこと?」
「えっと、誰かがこの森全体に結界を張ってしまったみたいで、それで、森から外に出られなくなってしまっているんです」
僕はティニスがあまりにも睨みつけてくるので、ツェツェに向かって聞いてみた。
「誰が結界を張ったのかが分からないんですけど……。ここから出るには結界を張った人に解いてもらわないといけないみたいで」
僕が気を失っている間にずいぶん色々なことが起きていたのだろうか。
僕はいつの間にかこんなところにいるし、リーネフはどこかへ行ってしまっているようだし、結界まで張られて森の外へも出られない。
「一応、結界を無理矢理破ろうとしたのですが……」
ツェツェはちらっとティニスの方を見た。ティニスは先ほどから僕を睨みつけたまま何も話さない。
ツェツェは僕の方を見て、続けた。
「だけど、全然何も起きなくて……。でもっ、結界を張った人を探し出せれば何とかなるかもしれないって、ティニスが」
「…………」
誰が何の目的で結界を張ったのか。それに、ティニスが結界を壊そうとして、それでも壊せなかったのだろう。となると、少なくともティニスよりは魔法の扱いに長けた者であることは間違いない。
結界を解くなり壊すなりして、ここから出るにはティニスの助けは必要だろう。少なくとも敵には回したくない。だけど、僕はティニスに相当恨まれているらしい。これを何とかしないことにはどうしようもない。
僕は頭上を振り仰いだ。
「ねえ、オルム、どうしたらいいと思う?」
『……さあな。それはお前次第だ』
オルムは面白がるように、にやりと口端を持ち上げた。
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