シャルルはリーネフの狙いが何なのか、考えを巡らせていた。 リーネフは森を守るように、シャルルの前に立ちふさがっている。リーネフは森を守ろうとしているのか……? いや――
「……あぁ、なるほどな。そういうことか」
シャルルはリーネフに向かって言った。
「お前は俺たちの標的であるエルフを守り、ついでにあの夢縫いを殺す。そうだろう?」 「ふふ……ご想像にお任せしますよ」
シャルルの勝ち誇った表情に、しかしリーネフは余裕の笑みを浮かべたままだ。
「ふん、まあいい。俺としちゃあ、強い奴と戦えればそれでいいんだけどよお」
シャルルはニヤリと口端を持ち上げた。
「本気で殺し合ってもらわなきゃ、つまんねえんだよっ!」
突如、雲一つない晴天の空がバチバチと激しく音を立てながら帯電し始めた。
「さあ、フェンリルさんよぉ、本気で頼むぜぇっ!」
シャルルの叫びと共に、帯電した電気が一気にリーネフに向かって雷となって降り注いだ。それも先ほどシャルルが繰り出した雷とはエネルギーが桁違いだった。
「ほう、……面白い」
一瞬、リーネフの口が引き結ばれた。だが、すぐにまたリーネフは余裕の笑みを浮かべる。牙で、鉤爪で、縦横無尽に降り注ぐ雷を切り裂くリーネフだが、雷の数はその手数を上回る。防ぎきれなかった雷が、リーネフの狼の身体に突き刺さった。
「ふふ……っくくく。なかなかやるじゃありませんか」
雷が降り注いだあと、地面がいくつも抉れて黒こげになっていた。リーネフの狼の身体にもまた、黒く焼け焦げた部分がいくつかあった。
「あなたの攻撃、なかなか見事な物でした。しかし、私の役目ももう終わりました」 「なんだと?」 「私とあなたがこうして戦っている間に、あの森に結界を張らせていただきました。これでもう、誰もあの中に入れませんし、出てもこれないでしょうね」
シャルルは森のほうへ意識を向けた。確かに、先ほどまでとは違う。何かがあるのはここからでも確認できた。 だが、シャルルはもうあのエルフやこの森のことはどうでもよかった。今のシャルルにとって、目の前のリーネフを倒す事だけがすべてなのだ。
「ふん、そんなことはどうでもいい。俺はお前さえ消し去れればそれでいい」 「おやおや、血の気が多いですねぇ。でも私はそろそろ退場させて頂きますよ」 「ほう。ここから逃げれるとでも?」 「あなた、そこの龍を置いて、私を追いかけてくるおつもりですか?」 「……チッ」
相手は狼だ。シャルルの足で追いつけるような相手ではないことは分かっていた。しかもシャルルの傍には未だ気絶したままのリインがいる。もし今リインが目覚めれば、少なくともリインの力があれば足止めくらいはできるだろう。その間にシャルルが追いつくこともできるだろうし、さすがのリーネフと言えどもシャルルとリインの2人がかりならば何とでもなるかもしれない。 だがしかし、いくら龍の血を持つリインといえども、気絶したままでは何の役にも立たない。かといって、この場に置いていくのも躊躇われた。何と言っても外見は女の子なのだから……。 シャルルが思考を巡らせている間に、リーネフは踵を返して走り去っていった。その姿はみるみる遠ざかっていく。
「くそっ! 逃げるんじゃねぇっ!」
リーネフに向けて放った言葉はしかし、空しく広大な草原に吸い込まれていった。 |