幻想の夢
―第一話 第五章 E―
著者:蒼夜


 空が月すらない闇に落ちた。周囲の人間がみな倒れ伏した。この、一瞬で。
 外傷はない。体へのダメージもない。違和感も何もない。
 だからこそ、この状況はあまりにおかしい。私たちだけ何の影響も受けてないなんて。

「ちっ……何がどうなってやがる!?」
 すぐ傍からシャルルの呻き声がする。普段からは想像もできないほど切羽詰まった声だ。
 実際、悠久の時を生きたこの私ですらこのような事態にあったことはない。
 いや――

「……死臭。それにこの空気……まさか!?」

 懐かしい、最悪の予感が脳裏をよぎる。
 思えば、兆候はあったはずだ。
 エルフとは違い、死をその身に宿すハーフエルフ。様々な幻想が消えゆく中、彼らはそのままでは人間に滅ぼされかねない存在ではある。とはいえ、≪神喰らい≫にとって安全を優先すべきものは他にもあるだろう。
 そもそもこちらもハーフエルフの討伐ごときに『審判者』が動くことはない。増してや私たちが出張っているのだ。それ相応の理由があると考えて然るべきだった。
 ≪神喰らい≫につき従う、世界を回す兄妹。
 そして≪神喰らい≫の用意した燃えない――いや、死なない森。
 本来とは違う。本来とは真逆の――

「……リイン?」
「不味いぞシャルルっ! 早く手を打たねばこの辺り一帯が――」
「おやおや? もう、気づかれてしまいましたかぁ。お互い伊達に長生きはしていないということでしょうかねぇ、赤竜?」

 おどけた声に、私は怒りのままに振り向いた。そこにいたのは神父服の青年。その顔には忌々しいほど見覚えのある。

「まぁ、貴方の同族の技法を真似たわけですからねぇ。気づいても当然ですか。ふふふふ〜」
「神喰らい――っ! 貴様ぁぁぁぁっ!!」
「はい、リーネフ[Rirnef]改めフェンリル[Fenrir]。貴方方曰く、神喰らいですよぉ」

 その涼やかな笑顔に…………私は――っ!!


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