幻想の夢
―第一話 第五章 ⑤―
著者:白良


「始まったみたいですねぇ」

 暗い坑道にリーネフの声が響いた。

「私は敵を排除しに向かいますので。ツェツェさん、ティニスさんはここで待っていてくださいね」
「はい。……お気を付けて」
「ボクが行かなくても本当に大丈夫?」
「ええ、敵の狙いはティニスさんあなたなのですから。それにちょっと厄介なのがいましてねぇ」

 憂いているような口振りとは裏腹に、リーネフは不敵な笑みを浮かべた。

「しかし、今回はこちらにミドガルズオルムがついていますから」

 そう言ってリーネフは首からぶら下げたカメラを持ち上げた。そのカメラはまさしくフランシスが持っていたものだ。

『ケッ。誰がテメエなんかの手伝いするかよ』
「おやぁ、フランシス君がどうなっても良いのですかぁ?」
『……』

 リーネフの傍らには、フランシスが気を失って倒れていた。

「過去の記憶を思い出しただけでこの様とは……やはり戦力として期待しなくて正解だったかもしれませんねぇ」

 リーネフは冷徹な目でフランシスを見下した。

「少しは私の戦力になるのではと思ってみましたが……。しばらく眠っていていただくとしましょうか」

 リーネフは踵を返すとツェツェ達に背を向けて言った。

「ツェツェさん、ティニスさん、もし私が戻ってくる前に敵がここまで来てしまったら……その時は迷わず、彼を囮にして逃げるのですよ」
「……はい」

 ツェツェは一瞬迷ったような顔をしたが、すぐに決意に満ちた顔で頷いた。
 リーネフはその返事に満足したのか、真っ直ぐに坑道の外へ歩き出した。
 そう、戦場に向かって。


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