「総員……ってぇええええ!」
ティニスの森の近くで響き渡るその声を号令に、魔法討伐に選ばれた20人を超える兵が構えて一斉に森に向けて放つ。 歴戦を物語る傷だらけの腕に握られるのは、銃ではなく一本の木の棒。放たれるのは鉛の玉ではなく、火の球を。
「……なるほど」 そんな光景を見て、リインの口から出てきたのはそんな感嘆の言葉だった。 木とは『生命の宿』だ。 幾多もの生物が木にその身を預ける。 故に、自然の加護を忘れた人間がもう一度魔法と言う名の自然の加護を集めるには木の枝を使うのは効率がいいのだ。
「シャルルも考えたんだな」 「こういうのが一番思いつくのはお前だったんじゃないのか?」 「私は人間に力を貸すつもりはない」 「俺も人間だけどな……」 「シャルルは別だ」 「ありがとよ」
とはいえ。 リインには一つわからない事があった。
「ねぇ、シャルル」 「なんだ?」 「神喰らいを殺すって……こんな魔法じゃ神喰らいほどの魔法なら一吹きで消えないか?」 「まぁ、いくら魔法を使って森を燃やしていると言っても。所詮燃やせて民家一軒くらいだろうな」 「なら、なんでこいつらに魔法を教えたんだ? 大した戦力にならないぞ」
何も分からないと言った表情で尋ねるリイン。 すると、シャルルは少し笑うとリインの頭をなでながら言葉を紡ぎ始めた。
「なぁ、リイン」 「何?」 「今のこの森に、火をつけるとどうなるかわかるか?」 「は? それは、燃える以外にないんじゃないか?」 「残念だな。ハズレだ。答は”燃えない”だ」 「ちょっとまて、昨日攻撃した時は燃えたじゃないか」 「あれからお前が森に入った後、違和感を覚えたから調べたんだ。いくらなんでも最新鋭の兵器をつかって木が二本しか燃えないなんて不自然過ぎる。だから、森から流れてきたこの葉に火をつけたら……」 「燃えなかったと?」 「そう言う事だ。火は自然の加護を一番受けやすい物だ。それ故に、その逆もしかりだ」 「逆?」 「少し法則をねじ曲げただけで、その性質は曲がりやすい」 「つまり……」 「曲げられたんだろうな。あの性格の悪いフェンリルの野郎に」 「あんの、馬鹿がッ……! 魔法でありながら自然の法則を乱す奴がいるかッ!」 「だからこそ、奴らに火の魔法を教えた。曲げられた法則を無理やり引き戻すためにな」 「でも……こんな少量の火で奴は現れるのか?」 「鏑矢って知ってるか?」 「なんだ、それは」 「遥か東の地ではな。戦争を始める前に礼儀として一本の矢を相手に放つものらしい」
「つまり?」
空に昇る日を見上げながら、シャルルは笑う。 それは日の中でも闇を思わせるほど暗く怪しい顔で。
「戦争の始まりだ!」
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