「それでてめぇは、んな所で何泣いてたんだよ」
足元に絡みつく草を払いのけては歩いていく森の中で、僕の胸のオルムがリインにそう問いかける。 しかしリインは、
「わ、私は別に泣いてはいない」
といってそっぽを向いてしまった。
「嘘つけッ! てめぇ、森ん中を歩きながらピーピー泣いてたじゃねぇか」 「まぁ、まぁ落ち着いて。これじゃあ話が進まないから」
全く。この二人はなんでこんなにも中が悪いのだろうか。 心の底から大きなため息をつきそうになるが、それを何とかこらえる。 そして、
「リインは僕たちが責任もって森の外まで連れてくけど……」 「その代わり何を教えてくれるのか……か?」 「わかってるならさっさと情報をよこしやがれッ!」 「うるさいなぁ。この成り損ない」 「うんだとぉッ!? てめぇ、龍として生まれたからって威張ってんじゃねぇぞ!」 「いい加減にしてよ、オルム。本当に話が進まないから!」 「……夢縫い。お前も苦労してるんだな」 「あ、わかってくれるの?」 「なんだぁ、この雰囲気。俺が全面的に悪いみたいな感じだなぁ」
まったくもってその通りだよ。オルム。
「それで、お前たちは何が知りたいんだ?」 「ああ、それはね。リイン……君もエルフの話を聞いてたなら。この森の子の事は知ってるんでしょ?」 「ああ、そうだな。知らない事もない」 「それなら、彼……じゃなかった彼女の事に知ってる事を教えてくれる?」 「まぁ、一言で言うなら……」 「言うなら?」 「明日にはあいつは死ぬな」
……は?
「どういう事?」
僕の耳か、頭の理解度が悪いのか。それともリインの言葉自体に問題があるのか。 どちらにせよ、唐突すぎるリインの言葉に、僕の頭ははてなマークで埋め尽くされていたが故に、僕の口からは質問の声しか出てこない。
「私がいると言う事は、あいつがいることくらいお前達には予想できてるでしょ?」 「”夢喰い”……、魔を殺す一族の中でも最強に近い奴だな」 「まぁ、私の相棒だがな。私がいて、シャルルがいる。そしてそこには魔が存在する。そこから出てくる結論なんて一つしかないと思うが?」
そこまで聞いて、変な納得の仕方をしてしまう。 ”夢喰い”シャルル。 その名は魔法と関わる者ならば、誰でも一度は聞いた事のある名前だ。 シャルルは、僕らのような魔法をこの世から消す事を生業としているモノの中でも、最強に近い存在だ。 だが、それよりも彼の名を知らしめる理由はその強さではなく、その所業。 誰よりも強い者を倒してきたシャルルだが、それは彼が持つ性格があったが故だった。
――誰よりも強く、 ――誰よりも残虐。
故に、彼を知る者は彼を恐れ。 彼を知らぬものは、彼の影におびえる。 それがシャルルと言う魔を殺す者に対する言葉だった。
だから明日中にティニスが死ぬと言うリインの言葉は、あまりにも的確で。それ故に悲しい言葉だった。
「で、それをなんで俺達に教えンだぁ?」
リインの言葉を聞いて、考えがまとまると同時にオルムの声が聞こえてくる。 「契約だからな。しかたない」 「で、本音は?」 「シャルルの奴がやる気がないから……」 「それはまたおかしなことを言うなぁ〜。あの戦闘狂が魔との戦いをいやがるわけねぇだろ」 「……シャルルは強い奴と戦う事しか興味がないんだ。だから、今回のエルフなんて俺の柄じゃねぇって言って動こうとしないんだ。そう言う時のシャルルは……その、なんだ。無能と言うか、わざと失敗すると言うか、な……」 「つまり……今回のエルフは、僕達に何とかしろって言いたいの?」 「私達は、エルフと言う”魔”が死んでくれさえすればいい。そうすれば仕事が片付いた事になるからな」 「つまり、僕たちは……」 「明日の夕方。それまでに決着をつけなければ、お前たちの望みとは違う結末が待ってるだけだ」
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