「ここにも……いない」
夜もふけて大分経ったこの時間。
空に瞬く星と月の光だけを頼りに走り続けて、辿り着いたのは先ほどティニスと戦った森の中。
疲れる足に鞭をはたいて探しまわったけど、そこにはティニスの姿も、ツェツェの姿も見当たらなかった。
宿にツェツェがいないとわかった瞬間。僕の頭によぎったのはこの森だった。
もしかしたら……ツェツェが大切なものを守るためにここに来たんじゃないかと思ったから。そう考えたら、僕の足は自然とこの森に向かっていた。
――だけど、いない。
もしかして、入れ違いになってしまったのだろうか。
いや。そもそもいなくなったこと自体、単なる買い物か何かで出かけているだけだったかもしれない。
だったら、こんな風に探しても意味のないことだろうし。今すぐに宿に戻って体を休めたいと思う。
……だけど、
「なんだろう、この嫌な予感」
ツェツェがいない。ティニスも突然消えてしまった。
この状況で何もない方がおかしい。
それにあの怪しい神父も……。
――カサッ
「!?」
僕の後ろで再び草が揺れる音がした。その瞬間、僕は自然と身構えていた。
先ほどの戦闘中にあの神父が現れたように。また何かいけないものが近づいてきたかと思ったから。
「……ぐす」
しかし、そのあとすぐに聞こえてきたのは幼い女の子がすすり泣くような声。
「げぇ」
近づいてくるその姿がはっきりと僕らの目に映った時、オルムから低い呻き声が聞こえてきた。
それであっちも気がついたのだろうか。僕らを指差しながら叫びだす。
「あ、お前たちは!?」
「てめぇ、赤竜!! こんな所で何してやがる!?」
そこにいたのは一人の少女。
燃え上がる炎を連想させるような紅い髪と優雅に輝く雪のような白い肌を月光の元に輝かせて、この世の者とは思えないような美少女が僕らの前に現れている。
普通なら言葉を失いそうなほど綺麗な光景だったけど、僕らは彼女と会うのは初めてではなかった。
故にその少女の存在を驚いたと言うよりは、少女がここにいる事実に驚いたといった方がよかった。
そしてこの少女名前はリイン。
幻想狩りを生業にする、『夢喰い』の相方だ。
そして神が作り出した始まりの大妖。四竜の一角、赤竜その人だ。
そんなリインは、僕らを見つけると、無表情のまま頬を染めて話し始める。
「べ、別に道に迷った訳ではない」
「あ、普通に自分でいっちゃったね」
「う、うるさい『夢縫い』フランシス! 私は別に噂のエルフの様子を見にきたはいいけど、目的のエルフは見つけられないし、おまけに道に迷った訳ではないぞ!!」
「そうかい。おぅ、フラン」
「なにさ」
「さっさとこの森を抜けようぜ。そこの迷子の『赤の姫君』なんて放っておいて」
「ま、待て。落ち着け。ここはお互いの利益になるように話し合いをしよう」
まったく、リインも素直になればいいのに。
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