幻想の夢
―第一話 第三章 I―
著者:白良


 僕は、何事も無かったかのように風にそよぐ木々の中に立っていた。ティニスを攫っていったあの神父が何者なのか。攫われたティニスがどうなってしまうのか、色々な考えが僕の頭の中に吹き荒れた。

『くっそっ、あンのクソ神父がっ!!』

 オルムはオルムであの神父に対して怒りを覚えているようだ。

「とにかく一旦街に戻ろう。ツェツェにこのことを報告しなくちゃいけないし」
『だな。どうせあンのクソ神父がどこ行ったかなんて、分かりゃしねェンだ』
「ところでオルム。あの神父が何者だったか分かる?」

 僕は森の中を、街に向かって駆け出しながらオルムに聞いた。

『分かンねェ。けど、俺達がどうにかできるような感じの奴じゃねェだろうな』
「……」

 あの神父が何故ティニスを攫っていったのか、僕には分からなかった。そして、僕の心の中には一抹の不安があった。その不安を一刻も早く解消したくて、僕は全力で森の中を走った。

『それにしてもよォ……くそッ、思い出すだけでも腹が立つ!』
「どうしたのさ、オルム」
『どうしたもこうしたも、あンのクソ神父、俺の中に無理矢理入りこんできやがったンだぞ!?』
「あー、うん、大変だったね」
『オイ! テメェ、本当に大変だと思ってなんかねェだろう!』
「そりゃあ分かんないよ。僕はオルムじゃないんだし」
『チッ、まあいい。それよりも――』
「それよりもツェツェが心配だ」

 僕はツェツェの事が心配でオルムの話を上の空で聞いていた。ティニスを攫っていったあの神父が、ツェツェのところに行かないとは考えにくい。むしろ確実にツェツェのところにあの神父は現れるだろう。
 けれど、あの神父の思惑が分からない以上、ツェツェも安全とは言い難い。

『ようやく森を抜けたな』

 オルムの声で我に返った。僕は考え事をしながらひたすら走っていた。
 僕は路地を右に左に、出来るだけ最短距離になるように走り抜けていった。

「はぁっ、……はあっ」

 そして僕はようやくツェツェのいる宿へとたどり着いた。運がいいことに、ツェツェの宿は街の中心地から離れていて、森からは比較的近い場所にあった。それでも結構息が上がってしまうのだが。
 僕は半ば体当たりをするような勢いで扉を開けた。

「ツェツェ!」
『……誰もいねェみたいだな』

 宿の中は朝出てきたときと同じように、いくつかのテーブルが整然と並んでいるだけだった。


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