この世界を覆う空も。
そして、それを囲む緑も。
気がつけばずいぶんと狭くなってしまった。
こうして森の中でも一番高い木の上から見上げた空は何も変わらなく。澄んだ色のまま、ボクらの事を見下ろしてくれている。
だけど、その顔色はやはり日に日に弱々しくなってゆく。
地平線の果てに見える人間たちの街。
そこから幾重にも舞い上がる灰色の煙は、いつか僕の好きなこの空を覆うだろう。そしてボクらにとっても、人間達にとっても害のあるモノに代わって行く……
だけど、そんなこと。ボクには関係なかった。
例え欲深い人間達がそれで自滅していくとしても、それによってこの世が灰色にくすんで行くとしても。ボクはそれでも関係なかった。
ボクは、僕の信じた世界がみたいだけだった。
ボクの世界はこの小さな森だけだ。
この森にはボクの全てがつまっているから。
ボクの記憶の始まりもこの森。
大切な人と出会ったのもこの森。
そして、あの子と一緒に笑ったのも……
――ん?
先ほどまで何かに引っかかったかのように重たかった瞼が、ようやく重りが取れたかのように開く。
目の前に広がるのはいつもボクが見ている森の片隅。その木々の間から見える空の色は藍色の夜空だ。
「……あれ?」
ボクはなんでこんな所で寝てるんだろう。
先ほどまではこの森に入ろうとしていた、あの面白そうな人間を脅かしていたはずだった。
だけど……気が付いたら寝ているのはボクだった。
確か、ボクはあの人間を木々の根っこを操って脅かしていて……それであの人間が首からぶら下げてた……、あれ。なんだっけ。確かカメラとか言う機械で強烈な光を放ってきたんだ。
つまり、ボクはあの人間に”写真”と言うモノを取られてしまったのだろうか。
――あれ? なんか、聞いた事があるぞ?
”カメラ”とかいう機械に”写真”とか言う奴を取られてしまうと魂が抜けるとかいう……
ま、まさか! ボクは魂を抜き取られちゃったの!?
そう思って体全体を手で触ってみるが、どこも異常はない。どうやら、あの噂はただの噂の様だ。
自分の無事を確認すると、ほっと胸をなでおろす。
危ない、危ない……
もし魂を抜き取られてたら、いくらボクでも死んじゃうよ……
でも、ボクは死ねないんだ。
あの人と交わした、あの約束を守るために。
あの子と、この場所で……
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