僕は必死に走っていた。
『おい、フラン! もっと速く走れねェのか!』
「む、無茶言わないでよ……っ」
言ったそばから僕を捕まえようと、地面から根が伸びてきて襲い掛かってくる。危うく足を捕られそうになった。
原因はさっき目の前に現れた少年なのだろう。自在に植物の根を操っているところを見るに、人間でないのは明らかだった。
『このまま逃げてても埒が明かねェ。何とかしろよ!』
自分が走っていないからって、言いたい放題である。
しかし、オルムの言うことにも一理ある。
僕は根の動きに注意しつつも、打開策を探した。
あの少年はおそらく、エルフだろう。このあたりにいる精霊で、根を操ってくるような奴はエルフくらいしかいない。
精霊の中でも比較的低級なエルフの力はさほど強いものではない。注意さえしていれば根をかわすことは出来る。しかし、次第に僕の体力は、確実に削り取られている。
周囲はところどころに木が生えている草原だ。
エルフが操る根に火でも放てば一番楽なんだけど、そんなことしたら、あたり一面火の海になってしまう。さすがにそれはまずいよなぁ……。一体どうすれば……
「あっ」
そこまで考えて、僕はあることを発見した。
『なんだ? どうした?』
「さっきからあの子、ずっと僕を見てる」
『だからどうしたってンだよ』
「オルム、フラッシュは焚けるかい?」
『あぁ、そういうことか』
僕らは互いに納得し、タイミングを見計る。
根の攻撃が緩んだ瞬間がチャンスだ。
まだだ……まだ……まだ……
『今だっ!』
僕はエルフの少年に向かってオルムを……いや、カメラを向ける。そして、僕はフラッシュだけを焚いた。
一瞬の眩い光。エルフの少年の視界に白い閃光が走る。僕はすばやく近くの太い木に身を隠す。
一瞬の沈黙。
1秒、2秒、……10秒、……1分経っても何も起きない。
僕はそぅっと木の陰から様子を見た。
そこには倒れたエルフがいた。何とかうまくいったみたいだ。
僕はほっとしつつ、木の陰から出た。
オルムが宿ったカメラは、フラッシュそのものが特殊で、相手の魂に干渉するのだ。エルフはこのフラッシュをまともに“見て”しまったから、魂にもそれなりにダメージを受けたことになる。
といっても、せいぜいフラッシュ程度だ。単に気絶しているに過ぎない。 僕はエルフが目を覚ます前に、足早に町へと向かった。
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