幻想の夢
―第一話 第一章 E―
著者:白良


 僕は必死に走っていた。

『おい、フラン! もっと速く走れねェのか!』
「む、無茶言わないでよ……っ」

 言ったそばから僕を捕まえようと、地面から根が伸びてきて襲い掛かってくる。危うく足を捕られそうになった。
 原因はさっき目の前に現れた少年なのだろう。自在に植物の根を操っているところを見るに、人間でないのは明らかだった。

『このまま逃げてても埒が明かねェ。何とかしろよ!』

 自分が走っていないからって、言いたい放題である。
 しかし、オルムの言うことにも一理ある。
 僕は根の動きに注意しつつも、打開策を探した。
 あの少年はおそらく、エルフだろう。このあたりにいる精霊で、根を操ってくるような奴はエルフくらいしかいない。
 精霊の中でも比較的低級なエルフの力はさほど強いものではない。注意さえしていれば根をかわすことは出来る。しかし、次第に僕の体力は、確実に削り取られている。
 周囲はところどころに木が生えている草原だ。
 エルフが操る根に火でも放てば一番楽なんだけど、そんなことしたら、あたり一面火の海になってしまう。さすがにそれはまずいよなぁ……。一体どうすれば……
「あっ」

 そこまで考えて、僕はあることを発見した。

『なんだ? どうした?』
「さっきからあの子、ずっと僕を見てる」
『だからどうしたってンだよ』
「オルム、フラッシュは焚けるかい?」
『あぁ、そういうことか』

 僕らは互いに納得し、タイミングを見計る。
 根の攻撃が緩んだ瞬間がチャンスだ。
 まだだ……まだ……まだ……

『今だっ!』

 僕はエルフの少年に向かってオルムを……いや、カメラを向ける。そして、僕はフラッシュだけを焚いた。
 一瞬の眩い光。エルフの少年の視界に白い閃光が走る。僕はすばやく近くの太い木に身を隠す。
 一瞬の沈黙。
 1秒、2秒、……10秒、……1分経っても何も起きない。
 僕はそぅっと木の陰から様子を見た。
 そこには倒れたエルフがいた。何とかうまくいったみたいだ。
 僕はほっとしつつ、木の陰から出た。
 オルムが宿ったカメラは、フラッシュそのものが特殊で、相手の魂に干渉するのだ。エルフはこのフラッシュをまともに“見て”しまったから、魂にもそれなりにダメージを受けたことになる。
 といっても、せいぜいフラッシュ程度だ。単に気絶しているに過ぎない。
 僕はエルフが目を覚ます前に、足早に町へと向かった。

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