『ケケ、いー気味だなフラン』
嘲り声を聞きながら、僕は絆創膏を頬に張る。
まったく、酷い目にあった。
『俺の忠告さえ無視しなけりゃンな事はなかったぜ?』
「……うるさいなぁ、もう」
あの時、落とし穴に落ちた僕を待っていたのは追撃の嵐だった。
落とし穴の底に足が着いた瞬間、再び地面を失い落下。何とか壁にナイフを刺そうと試みても、塗ってあったオイルで引っかからない。ようやく底に着いたと思ったら、今度は足を縄に引っ張られて急上昇――
結局、村の人に見つけられるまで僕は木の上で逆さ吊りだった。
『けど良かったじゃねぇか。そンだけでよ』
まぁ確かに。好戦的な相手だったら、僕は殺されてもおかしくなかった。
だけど、そうならないためにオルムがいる。オルムなら大抵の相手は――
「って、あの時に僕を助けてくれても良かったじゃないか」
『それりゃ無理だぜ。私の力は崇高な御役目以外には使っていけませんのよ? おほほ』
「まぁ、そうだけどさ……はぁ」
役目、その言葉を聞くたびにどうしようもなく嫌になる。
『そーいや、こりゃ朗報ってやつでいいのか?』
「僕が落とし穴に落ちた事?」
『そいつもそーだが……ありゃ、きっとエルフの仕業だぜ』
「エルフ?」
確か妖精の一種だったと思う。この世のものとは思えないほど美しくて若々しい外見を持ち、森や泉などに住むとか。あと、不老長寿で――
「……自然に関する魔法の力?」
『あぁ、俺らの間じゃ小神族とか言われてンな』
「イタズラとかするイメージがないけど?」
オルムは物知りだ。驚くくらいに色々な事を知っている。それだけ世界を見て、色々知ったらしい。その割には機械の操作とかは点で駄目だけど。
それでも、解らない事は聞けば大抵教えてくれる……機嫌の良い時限定で。
『いろンなやつらがいるからな、そりゃ……そういやノルンとこの一匹はハーフだったか』
「ハーフ?」
『エルフと人間の、な。あそこンとこの王様のガンドアールヴたぁ特に知り合いじゃねぇから良くは解らんが、結構いるみたいだぜ。そーゆうの、ケケ』
「…………」
人間とのハーフか。あのお方は、どう考えてるのだろうか?
『まぁ、今のまンまじゃこれ以上は判ンねえよ。悪戯だって立派な悪意だ。人間にゃそれだけのモンを抱かせるだけの罪があるからな。総てのエルフに――いや、総ての魔物に』
「そう、だね」
その、人に向けられた悪意を払う事が僕達の――
『……今日はもう寝な。フランは目ぇ付けられたみたいだからな』
「やっぱり、そうなるのかなぁ」
『明日はもっと忙しくなるぜ、ケケ』
できれば忙しくなってほしくないなぁ……
そんな事を考えているうちに、僕はまどろみの中に落ちていた。
……ついでに、ベッドの上からも。
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