これは深い緑の広がる森の中の物語。
そこは数年前までは街道として栄えていた森の小道。
だが、そこには一つの伝説があった。
「おいでよ、オジサン。僕と遊ぼう」
馬車を引いていた男がそう耳にする。
しかし聞こえた先は誰も入らないような森の茂み。
故に男は木のせいだと思ったのだ。
「ねえ、オジサン。そんな暗い顔をしないで僕と遊ぼう」
しかし再び聞こえる少年の声。
だが、その声は明らかな不自然さがあった。
その声は男の耳元で聞こえてきたのだ。
驚いた男は振り返る。だが、そこには誰もいない。
気味が悪くなった男は馬車をせかせようと鞭を振り上げる。
「……ッ!」
だが、馬車は止まる。
そこには先ほどまでは影すら見る事の敵わなかった者がいたのだから。
「オジサン。何を怖がってるの?」
そう、そこにいたのは一人の少年。
なんでもない、普通の少年だった。
ならば恐れる事は何もない。少年に声をかけてどいてもらえばいいのだ。
だが、男はできなかった。
それが何故と言う理由を付ける事は出来ない。
だがその少年にはこの世のものではない。そんなあてもない確信が男の中に生まれる。
「ねえ……オ・ジ・サ・ン……?」
――限界だった。
次の瞬間、男の意識は遠のいていってしまったのだった。
……男が次に目を覚ました時。そこは森を抜けた先の小屋だった。
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